Punks!

宇宙に出る事っていうのは、そりゃあ素晴らしい。

実際に出るまではそう思っていた。

日本人の自分が、せっかく入った大学を、どうして中退して米軍に入隊したのか。
実のところ覚えていない。アメリカの市民権が欲しかった訳ではないし、
人殺しがしてみたかった訳でもない。だがどうせ下らない理由だったのだろう。
なんせ忘れたぐらいなのだから。

空軍の空挺部隊という奴はエリートなのだそうだ。誰もが皆そう言っていた。
しかし自分ときたら、そういう事を誇る価値観さえも持ち合わせていなくて、
ただ何となく、気がついたらそうなっていた。それも下士官で。

配属されてまもなく、戦略宇宙軍のシャトルに乗せられて月までのフライトにつき合わされた。
連れて行ってくれなんて一言も頼んでいない。実際軍隊というのはそういうところだ。
こちらの都合も聞かずに勝手に予定を組んでくれやがる。まったく。

たどり着いたのは月面都市の裏口。そう聞かされた。
分離独立派テロリストを強制排除するのだそうだ。国際共同管理の月面都市で、
国連の要請もなしで米軍が出張るというのはおかしな話だ。
もっとも、そういう理屈は娑婆に出てから知ったのだが。
とにかくその時は、与えられた任務を全うするのが仕事だった。それが単なる人殺しだとしても。

任務終了後、俺は速やかに除隊申請を出した。
何度も誓わされた、守秘義務の宣誓書にうんざりする程のサイン。
自由の国はこういう時は便利だが、
個人を監視する国の自由というのも保証されているらしい米国での居心地は悪くなる一方だ。
結局のところ、俺は逃げ出した筈の日本、それも故郷に舞い戻ってきてしまった。

家族は歓迎してくれたが、しかしだからと言って逃亡者の身の上が軽くなるという訳でもない。
そもそも、故郷からも逃げ出した人間なのだ。ここでも俺は裏切り者なのだ。

教訓。失敗者に逃げ道はない。踏みとどまり戦わなければならない。

だからここにいる事にした。

前に進まなければならない、なんて陳腐な言葉に感動したからではない。
踏みとどまらなければ、時間は、世間は、容赦なく自分を押し流してしまう事。
それに今更ながら気づいただけだ。

誰だって死にたくはない。

あんたもそうだろ?

俺はそうだ。

死にたい奴は死ねばいい。俺は生きる。