Punks!Highwaystar?Speedstar?

テーブルの上には十数枚の万札が広げられている。

怖い顔をした金髪美人が無言でそれを睨んでいる。
左が青で右が黒、左右非対称の瞳と白人にしては滑らかな肌が、混血である事を示す微かな痕跡だ。

万札を睨んだまま、彼女は仏頂面でいる。そのお札が親の仇のような顔をしている。

そんな事はない。広げられた札は彼女が管理人をしている丸の内のボロアパートに住んでいる従兄から、
家賃として支払われたものだ。従兄は気に入らなかったが親の仇であろう筈もない。

それでも、彼女は考え込んでいた。

はっきり言って、従兄はろくでなしだ。大学を中退した後、海外に出奔、行方不明。
先日突然戻ってきたが、素人探偵の真似事を始めて、家賃も払えないカツカツの生活をしている。

そんな奴がぽいっと四か月分の家賃を一括で払うなど、どう考えても胡散臭いではないか。
しかもその直後に堀川で火傷を負った姿で発見されている。

おそらく従兄は、ヤバイ事に手を出したのだろう。
そうでなければプー太郎と変わらない素人探偵に、こんな金が手に入る筈がない。

「…あの東部のボンボンが怪しいよね」

従兄が金を支払った直前に彼を尋ねてきた、場に不釣合いなエグゼクティブビジネスマン。
金の出所はそれしか思いつかない。

実のところを言うと、ヤバイならヤバイで彼女は一向に構わなかった。
従兄がどんな危険な目に合おうと、その為に死んでしまおうと、
極論すれば『自業自得』で済ませてしまえる。しかし、受け取った金自体がヤバイなら、
話は違う。そんなものを受け取ったら自分まで臭い飯を食わなければならない。それだけはご免だ。

「大家さんにも迷惑かかるしなぁ」

はっきり言えば、問題なのはそれだけなのだ。
このボロアパートのオーナーは彼女にとって単なる雇い主ではない。
それだけに迷惑をかけるのだけは避けたい。突っ返せば話は楽だが、
根拠も何もないからそれもできない。難しい顔をして睨む他なかった。

その時、事務所の扉を控え目にノックするものがいた。ガラス張りの引き戸である。
相手が誰かはすぐに解る。

「…てっちゃんか…」

美人の顔が更に渋くなった。彼こそが件の従兄なのだ。

ところどころ包帯やら絆創膏をデコレーションしている長身の男。
痩せ型、不機嫌、野性的と好意的に評価しても良い色男だが、
外見だけしか取り得がないという事は承知している。
とにかく、女あしらいが悪すぎる。こちらの返事も碌に聞かずに入ってきて、開口一番がこれだ。