月と星と太陽と |
何の為に剣を振るうのか。 物心ついた時からその手に剣を握っていた彼にはどうでもいい事だった。 敵を目の前にすると相手にどうやって勝つか、その事だけが頭を占める。 流浪を重ねて勝ち続ければ、自然に名前も広まっていくのだと、旅をしてしばらくたつと解ってきた。 同時に今度は命がいくつあっても足らなくなる。 これが自分の限界なのか。彼は傷を負い、数を頼む挑戦者に追い詰められながら思った。 武器はとうに失っている。俺はここまでの男だったのか。 逃げ延びた古い遺跡で彼は自分自身を笑った。 自分の限界を知ると言うのは、まぁ有意義な事だったが、 しかし知った途端に死ぬと言うのはつまらない話だな。 己の限界を知ったというのか少年よ。 遺跡の中で誰かが彼の頭の中で問うた。あの世の声が自分の耳に届いたのかな? 彼は少し自虐的にそんな事を考えた。 空耳と思うか。しかし、まだ生き延びたいと思うならば、この神殿・・・いや廃墟か、 この祭壇の奥に隠された剣を使え。お前にその力があるのなら、神の手で鍛えられた剣を託そう。 やっぱり幻聴だろう。彼はそう思った。言うに事欠いて神が鍛えた剣という。 だがそれはそれで面白いと思った。 今の状態がこれ以上ないどん底だから、これ以上悪くなり様がない。 彼は言葉のままに祭壇を調べる。中には巨大な剣が納まっていた。 彼はかなり長身なのだが、その彼にしても自在に振り回すには手にあまりそうな、 常識外れの巨大な剣だった。だがのんびりとはしていられない。追手の声が身近に迫っている。 彼は豪華な装飾が施された剣の鞘を抜いた。 神々しく白銀の光を放つ剣身には『デュランデル』という名が記されている。 それは竜神、鍛冶の神デュランデルと同じ名前だった。まさかとは思う。 が、すぐにどうでもいい事に変わった。敵が自分を見つけた。男達が襲い掛かってくる。 考えるよりも、痛みを気遣うよりも先に足が動いていた。 剣が踊る。襲い掛かった男達はあっという間に二つにされていた。 彼は思ったよりもこの巨大な剣が使い勝手のいい物と気が付いた。悪戯心が沸く。 今までは出す度に剣が壊れていた大技が彼にはある。それを試してみようと思ったのだ。 技を使った後に剣が壊れなければ、正真正銘、神が鍛えた剣かも知れない。 都合のいい事に敵が現れた。彼は『破砕剣』と叫び、その技を放つ。白い閃光が世界を支配する。 その瞬間、彼、ウルバード=ヴィレンツを『竜騎士』と呼ぶ伝説が始まるが、 この長身の、長い赤毛を三つ編みに編み上げた少年はそんな事など思いもよらない。 これは自分のもっとも気の合う剣だ。彼はその事だけで十分満足していた。 |